ライツ・プラン発動の初事例

アウトプット(ブログ)を意識することの効用の一つは、インプットの意識も高まるところにあると思うのですが、改めて留学時代に収集していたブログ等を整理しているうちに、アメリカでライツ・プランについて歴史的な動きがあることを知りました。

ライツ・プランというのは、別名ポイズン・ピルとも呼ばれる買収防衛策です*1
非常に大雑把にいえば、ある一定割合以上の株式を買収者が取得してしまうと、買収者以外の株主に対して追加の株式が発行されることで、買収者の有している株式の(議決権・経済的)価値が目減り(希釈化)してしまう仕組みをつくること、買収者に敵対的買収インセンティブを削いでしまおうというものです*2

アメリカでも既に20年以上の歴史のあるライツ・プランですが、過去には間違って発動させてしまったものを除いて、意図的に発動させてしまったものはないとも言われていたのですが、Selectica, Inc.というNasdaq上場企業で実際に発動されてしまったようです。

興味深いのは、Selecticaは、11月にライツ・プランの発動条件を従来の15%から4.99%に下げた点です。通常、アメリカではデラウェア州会社法203条の規定なども意識して15%という基準をとることが多いのですが、5%というのは大量保有報告書提出基準以下なので、かなり低いという印象ですし、そもそも防衛目的としては「行き過ぎ」な気もするのですが、どうもこれは防衛目的というよりも税務上の繰越損失確保が目的だったようです(詳しいことは知りませんが)。

ライツ・プランというのは、構造上、トリガーされる基準となる株式数が少なければ、それだけ希釈化による損害は絶対的には小さくなります*3。そういう意味では、ライツ・プランの基準を超えたときに、どのように会社が反応するのか、とか、裁判所はどう反応するのか、とかを見たいのであれば、いい機会だとも言えます。

日本ではライツ・プランを発動させる際には、どんな手続きを踏むべきかがかまびすしいわけですが、そこは本場アメリカ、事前の同意なく線を越えたらやるよ、と言っているんだったら、問答無用でやってしまいます。
12月18日にトリガーを越えたと思ったら、19日には買収者として認定され、年が明けて1月3日はライツによる希釈化手続きが開始されたようです。その後も手続きは順調に進み、2月4日には希釈化のために発行された株式も上場され流通が始まるようです。

あと、これも面白いのですが、トリガーしておいて買収者側が訴訟を提起するかと思いきや、先手を打って(?)、会社側がライツ・プランの有効性を確認するための訴訟を提起しているようです*4

何れにせよ、余り万人向けの話ではありませんが、個人的には注目です。

*1:今では日本企業も同様の仕組みを有するライツ・プランを多数導入しているわけですが、米国のライツ・プランの条項を研究して、日本で同様の仕組みを導入するのにどのような法的システムをとるかを検討しはじめた頃は、それなりにプロジェクトX的な苦労もあったりしたものです。その辺りの苦労は、企業買収防衛戦略なんかに現れていたりします

*2:ライツ・プランの仕組みについては、昔のブログで少し解説していますので、そちらを見ていただくといいかも知れません。ライツ・プランが発動された過去の事例については、その記事のコメント欄でも触れていますね

*3:相対的には、大きくなるのですが

*4:こ理由は分かりませんが、株主側からの訴訟を待っていると証券訴訟として連邦地裁に提起される可能性があるので、法廷地をデラウェアとするために訴訟提起ということも考えられるのかも知れません。全くの憶測ですが