facebookへの出資スキームのどこが問題か?


遅ればせながら、皆様明けましておめでとうございます。

写真は本文とは全く関係ありませんが、最近、趣味をきかれると「写真」と答えるぐらいにはまっているので、今年はブログにも積極的に載せていこうかなどと考えています。
中身ではなく、写真の方へのコメントも歓迎いたします。

それはそれとして、今年最初のエントリーはやはり今年の抱負かなぁ、でも毎年そんなんちゃんと立ててないし、どうしよう・・・とか迷っているうちに、正月休みも終わってしまったんですが、今日、さる方から電話がかかってきて、新年のあいさつもそこそこに、「facebookGoldman Sachsが出資したスキームについてSECが調査しているらしいですけど、どこが問題なんですか?」ときかれて、「その話は知っているけど(心の声:twitterのTLに流れてたな、なんか)、具体的なことは知らないけど、もうちょっと話してみて」と、伝聞情報だけで与太話をしていたら、面白いかもと思って、ちょこっと調べてみたので、結局備忘ということで。

元ネタ収集は無料登録で記事が読めるNew York Timesからですが、とりあえず以下の3つぐらいを見てみると・・・

ちなみに、皆さん、ご存じのようにfacebookは非上場会社です。したがって、今のところ、日本でいう有価証券報告書とか四半期報告書の開示義務はない上に、そもそもこうした報告書に必要となる財務諸表作成義務とか監査を受けなきゃいけない義務もありません(もちろん、SOX法の各種ガバナンス関係規制もかかりません)。
今回のスキームでは、GSがロシアの投資家と一緒に5億ドルの投資を行いますが(GS分は4.5億ドル)、それとは別に投資ビークルを設立して、そこへの投資をGSの資産家クライアントに募っているようです(ちなみに、最低投資額は200万ドルのようです)。
最終的に、どのぐらいの人数の投資家がこのビークルに投資するかは分かりませんが、こうして投資ビークルを介して、法定開示を行っていない企業への投資を勧誘するのは脱法じゃないの、というのが、今回のSECによる調査の一つのポイントではないかと記事は言っているわけです。


つまり、米国証券法上は株主が500人以上になると継続開示義務を負うところ、ここでいう「株主数」というのは、株主名簿上の株主数を基準とするのが「原則」なので、たとえ1000人の投資家がいても、その1000人の投資家が一つの投資ビークルを通じて投資すれば、株主名簿上は1人の株主としてカウントされるので、継続開示義務が生じないことになる・・・というのは、「脱法」じゃないかという話です。

もちろん、「脱法」への対応条項はあって、投資ビークルが主として証券法の規制を回避するために用いられていることを発行会社が知っているような時には、背後の株主を名簿上の株主と同視するということになっているようです*1

・・・と、記事を見ると、この程度なんですが、こんな初歩的なところでGSがひっかかるというのも考えがたいところで、勧誘の対象は、いずれにせよいわゆる適格機関投資家ばかりとなる見込みが高いことや、投資ビークルの「主たる」目的が証券法規制回避であるという立証や、ましてや、それを発行会社が知るという要件を実際に適用するには、いろいろなハードルがありそうなこととか、間にもう一つ投資用のビークルとか入れるとか重層構造にされたら終わりじゃないの、とか考えると、SECの目的がそれだけというのも、何かなぁという感じです。

そもそも、4.5億ドルという金額は絶対額としてはそれなりですが、GSの運用資産の規模や、facebookの「推定時価総額500億ドル」という規模からすると、プリンシパル投資としては、ちょっとせこい感じもあります。投資利回りとしても、非上場のfacebook株式は流動性がないので、すぐにキャピタルゲインが出るということでもないわけでもないので、1%弱にしかならないminority投資としては投資回収ルートが限られています。

ただ、こういう正攻法の投資リターンを求めた取引でないとすれば別の見方もできるような気もします。
15億ドルのビークルを通じた投資については、別の記事ではGSは初期手数料だけで額面の4%程度を投資家からとるということになっているともされているので、予定通り集まれば、その段階で6000万ドルの手数料収入は確定です。4.5億ドルの投資に対して、3か月で6000万ドルのリターンが返って来るということなら、利回りは悪くない数字です。
さらに、これまたNYTの記事によると、GSは自己投資分については最大7.5億ドルを共同投資家であるロシアの投資家に売却できるオプションを有しているという話なので、このプットオプションの条件次第では、4.5億ドルの投資についてもGSのリスクはヘッジされている可能性があります。

この辺りは、記事の情報自体が「関係筋によると」レベルなので、信憑性はよく分かりませんが、仮にGSが自己投資分についてはリスクをヘッジしつつ、15億ドルのエクイティ投資の仲介手数料(6000万ドル?)を得られるスキームになっているとすると、自己投資部門と仲介部門(顧客資産運用部門)との間の利益相反問題はきちんと対処されているのかと気にもなるところです。

更に言えば、いくら手数料が稼げるといっても、それによって経営者の持分が大幅に希釈化するようではfacebookもクビを縦にふらないわけで、「推定時価総額500億ドル」であれば、15億ドル集めても3%の持分しかとれないという、facebookの凄まじい時価総額が全てのベースになっているわけです。
そこで、問題となるのは、この「推定時価総額」の弾き出し方ということで・・・うーん、ちょっとここまで来ると実名さらしながらブログをやっている身としては、だんだん書きづらい領域になってきましたが、SECが見ているのは単に開示義務云々というところだけではなく、未上場株取引全般の取引の公正性についてではないかという気がしています。
新年1発目から、余りたくさん書くと後を書くのがまた半年後ぐらいになりそうなので、詳しくは飲み会なんかで会った時にでもということで(笑)

それでは、今年もどうかよろしくお願いします。

*1:上記NYTの記事によると、"If the [company] knows or has reason to know that the form of holding securities of record is used primarily to circumvent the provisions of [the Securities Act], the beneficial owners of such securities shall be deemed to be the record owners thereof. "とのこと。