独禁法とM&A実務の交錯

というテーマで1か月ぐらい前にセミナーをやったんですが、その時のレジュメを、このブログの読者の皆様にだけ公開します(って、口頭での補足がないとイマイチ内容がつかみにくいかもしれなんで、別にそんなに恩着せがましくいうようなもんでもないんですが・・・)

「M&Aにおける企業結合規制対応の最新動向」(pdf136MB)

もうご存じの方も多いと思いますが、このセミナーをやった後、6月3日には独禁法改正案が成立しています。
直接M&Aに関連するものとしては、(1)株式取得についての事前届出制の導入、(2)株式取得に関する閾値の変更(10/25/50→20/50)、(3)外国会社に対する届出基準適用、(4)届出基準の変更といったところがメインになります。

(3)辺りは、意外とクロスボーダーM&Aには影響があったりするところですし、(2)については、これに伴って企業結合ガイドラインでの書きぶりがどうなるのかという辺りが気になるところですが、それ自体が従前の実務に根本的な変更をもたらすというものでもなさそうです。
むしろ、気になるのは、課徴金制度の拡大とか法定刑の引き上げに見る執行面での強化の方向性と、最近の公取委の非カルテル型事案に対する姿勢だったりします。

もちろん、独禁法の適切な執行は市場経済の基本というのはその通りなのですが、一方で、独禁法が守ろうとする価格メカニズムは、市場のプレイヤーの利己的な行動の積み重ねによるものであり、それに不必要なバイアスを与える介入は避けるべきというのも、「経済」法たる独禁法と、その執行機関である公取委が意識すべき原則のはずです。
自分たちこそが「あるべき市場」や「本来の市場」を知っているという幻想にとりつかれた瞬間から、独禁法は市場の保護者から、市場の敵になる可能性を秘めています。
その辺りの危ういバランスの上に保たれるべき競争法の執行がどこに向かっていくのか、留学から戻って以来個人的には結構気になっているところです。